研究内容:非緑色プラスチドの形態形成
非緑色プラスチドの形態形成
植物の葉っぱに「葉緑体」という緑色の粒が存在して,それが光合成を行っている,というのは良く知られています.いっぽう,花弁(花びら),根,花粉,種子の中など,ふつう緑色でない場所(細胞)にも葉緑体の仲間が存在することはあまり知られていません.これらの「葉緑体とその仲間たち」を「プラスチド(色素体)」と呼びます.葉緑体以外のプラスチドは緑色の色素(クロロフィル)をもたず,光合成をしません.そのかわりに,花弁や果実のプラスチド(クロモプラスト)は赤・黄色系の色素を貯め込んで花・果実を発色させますし,根や種子のプラスチド(白色体)は無色ですがデンプンなどの物質を蓄えることができ,(植物は望んでいないでしょうが)私たちのお腹も満たしてくれます.このように色も機能も違うものなのに,なぜこれらは互いに「仲間たち」ということになるのでしょうか? それは,これらは互いに「変身」することができるからです.たとえば,葉緑体がクロモプラストや白色体になったり,その逆だったり.このような可塑的(plastic)な性質をもつ細胞小器官がプラスチド(plastid)なのです.
画像1:花粉のプラスチド
シロイヌナズナ花粉のプラスチド
[プラスチドは GFP で標識]
画像2:孔辺細胞の葉緑体
シロイヌナズナ孔辺細胞の葉緑体
[葉緑体は CFP で標識]
画像3:根表皮のプラスチド
シロイヌナズナ根表皮のプラスチド
[プラスチドは CFP で標識]
さて,上で触れた葉緑体のかたち作りの仕組みについては,分子レベルでの研究が進んでおり,主要なものだけでも十数種類の遺伝子(その産物であるタンパク質)が葉緑体形態形成(均等二分裂による形とサイズの調節)に関与することが知られています.当研究室で研究を進めてきている,葉緑体の分裂をど真ん中で起こすための因子,MinEタンパク質もその一つです.分裂が真ん中で起こらなければ葉緑体のサイズはてんでバラバラとなり,また,分裂が2箇所以上で起きてしまうと葉緑体の形は単純な球形〜楕円球にはなりません.「分裂をど真ん中の1箇所だけで起こす」ことは,葉緑体の正常なかたちを維持する上で非常に重要なのです.
いっぽう,葉緑体以外のプラスチドについては,そのかたち作りの仕組みがよくわかっていません.これまでの研究から,葉緑体と共通した仕組みも一部働いているようなのですが,それだけでは説明がつかない部分が多くあります.当研究室では,このような非緑色プラスチドに固有のかたち作りの仕組みの解明に取り組んでいます.
参考文献(より詳しく知りたい一般の方向け)
伊藤 竜一 (2013) 葉緑体の知られざる生活.琉球大学(編)知の源泉 ― やわらかい南の学と思想5,pp. 272–287.沖縄タイムス社,那覇